四方山話

     

韓国フィットネス紀行/四方山話



 


6月5日

 訪韓2日目、宿泊料金にセットされている朝食は、ドリップされて温まっているコーヒーとパン2枚をトーストにしてピーナッツバターを塗って済ませた。
デイパックを背にして、「地球の歩き方」を片手にミョンドンの街中に出てみた。宿からは徒歩で10分程度の距離である。
このミョンドンは古くから商店街として発展してきたらしく、現在もロッテ百貨店や新世界百貨店といった大型の商業施設をはじめとして、しゃれた若者向けの衣料品やバッグ、靴などを販売している店舗や屋台が立ち並び、ファーストフード店はもちろんだが、焼肉、鍋料理など韓国を代表する飲食店なども多い。
また、明らかに日本人の観光客を目当てにしていると思われるが、日本語で「韓流スター専門店」などと書かれた看板もちらほら目にすることができた。
店内には入らなかったが、どのようなものが販売されているのかはだいたい想像ができたし、通りでも韓流スターの写真が入った写真立てやカレンダー、キーホルダーなどを販売している屋台がいくつかあった。
それとは別に、本人が直接オーナーなのか、それともイメージキャラクターとして起用されているのかは分からないが、化粧品を扱うお店の前に等身大の写真が置いてあり、日本から来た40代くらいの女性が、その写真の前でワイワイガヤガヤ言いながら記念撮影をしている姿も目に付いた。
適当にブラブラしていると空腹を覚えてきたので、「入りやすいところはないかな?」とキョロキョロしていると、ウインドウに料理の大きな写真が一面に張られていて、それぞれの写真にハングルと日本語で料理名が書かれ、その横には金額の表示もあったお店が目に付いてきた。
また、日本語で「日本の・・・テレビでとてもおいしいと紹介された店です。ご安心してお入りください!」と大きく宣伝されていたので、中に入ってみた。
席に着くと、すぐにメニューとお茶がテーブルの上に置かれた。メニューにはそれぞれの料理の写真も載っていてパラパラとめくっていると石焼ビビンバのおいしそうな写真を発見。「石焼ビビンバ:5,000ウォン」という日本語も横にあり、日本円で約676円である。さっそく注文してみることにした。
しかし、この「お茶です。」と言ってテーブルに置かれたものだが、手に取ってみると、冷たく色もほとんど付いていない。「この時期だから冷たいほうが飲みやすいかもしれないな。」と口に含んでみると、「何だ、この味は?」状態で、味が付いているのかどうかほとんど分からないくらい。
逆に、「水です。」と言って出されても、「水にしてはうっすらと味が付いているような感じだな。」と飲めてしまえるような代物で、全くおいしくない。
すぐにスープが出されて飲んでみたが、これも口に合うものではなかった。なんかいやな予感がしてきたが、お茶やスープがまずいからといって石焼ビビンバまでまずいとは限らないし、これで石焼ビビンバがおいしければお茶やスープのまずさなど吹っ飛んでしまうはずである。
期待を込めて待っていると、石焼ビビンバが運ばれてきた。店主の「熱い。気をつけて。」の日本語に「はい」と日本語で元気に答えた。まだ、底のほうが「ジュージュー」いっているようである。
正直言うと、石焼ビビンバなど日本では10年に1回食べるか食べないかというもので、右手に金属製のスプーンを持ちながら「あれ、確かかき回して食べたよな?」と一瞬固まってしまった。
まあ、食べ方など多少普通でなくてもおいしいものはおいしいはずである。右手に持ったスプーンで全体を適当にかき回し、口に運んでみた。「????」、もう一度、器の別の部分を掘削し、再び口へ…。
ガーン、「まずい!」みごとに外れであった。「まずい!」何がまずいのかよく分からなかった。「この部分がまずい!」というのが分かっていれば、それを外して口に合うものだけを食べるのであるが、これが全体的に「まずい」のであった。
仕方がないので、副菜のキムチとご飯の部分だけを少し食べて店を出た。「くそー、いつかリベンジしてやる!」と速攻でファーストフード店に向かったのである。
夜になると、ミョンドンの駅に通じる階段の出口の周りには屋台が数軒出ていた。道行く人に料理名と金額が分かるように大きくハングルと日本語でメニューを出している屋台があったので、中に足を踏み入れてみた。
50代前半くらいの女性が2人で切り盛りをしている。屋台と言っても、ここは4人がけのプラスチックのテーブルが8つあり、周りはよしずやビニールのシートで囲っているので、ちょっとした居酒屋と言った感じである。ガスコンロも使っているので「煮る」「焼く」「炒める」と一通り調理はできるようだ。
日本語のガイドブックを手にしていたので私が日本人だと分かったのか、流暢な日本語で「どうぞ、ここに座ってください。」と声を掛けくれた。
席に腰を掛けるとメニューを持って来て「活きダコがおいしいですよ。どうですか?」と勧めてくれた。メニューには10,000ウォンとあり約1,350円である。結構いい値段である。日本であれば注文をしないかもしれないが、「せっかく韓国に来たのだし」ということで注文してみた。
「飲み物はどうしますか?とりあえずビールですか?」と、日本人の観光客の利用も多いと見えて、「とりあえず」を使うところなど日本人の習慣がよく分かっている。
「ええ、ビール下さい。」
「この小さいほうが3,000ウォン(約405円)、大きいほうのビンだと5,000ウォン(約676円)です。どちらにしますか?この大きいほうのビンの方がお得ですよ。こっちでいいでしょう?!」
「ええ、大ビンでお願いします。」
と、勧められるがままに大ビンを注文。「小さいほう」は日本で言う中ビンのことで500ml、大ビンは日本の大ビンと変わらないくらいの容量である。
運ばれてきたビールをチビリチビリやっていると、隣の席に地元のサラリーマン風の男性が4人腰を掛けた。大分出来上がっているようである。2人は30代後半、あとの2人は50代半ばくらいと思われる。
程なく注文した「活きダコ」が運ばれてきたのだが、中皿くらいの皿の上にぶつ切りにされたタコの足がニョロニョロと踊っているのである。勧められるまま注文をし、深く考えていなかったが、まさしく「活きダコ」であった。
皿の上のタコの足の動きを見ていると、「パイレーツ・オブ・カリビアン」のタコ船長のデビッドジョーンズを思い出してしまった。まさしくあの足が皿の上に乗っているのである。
恐る恐るはしを近づけたが、足の吸盤が皿にくっついてなかなか取れない。「そう簡単に喰われてたまるか!」と最後の抵抗をしているようだ。何とかはしに挟み、辛味の効いたタレにつけて口の中に運ぶが、今度は口の中にひっついてなかなか飲み込むことができない。あまり気持ちのよいものではない。
もう後の祭りだが、注文するときに良く考えておけばよかったと思いがこみ上げてきた。「食べづらい」の前に、「生のタコ刺し」はそれほど好物ではないのである。「味」がタンパクであまりおいしいと思ったことがないので、日本でも「御通し」などで出てくるときは別だが、自分から注文することなどはちょっと記憶にない。
食べづらそうにしている姿を見て隣に座っている若い方の男性が「おいしいですか?」と英語で声を掛けてきた。
さほど美味とも思えなかったが「ええ、おいしいですよ。」と、うそも方便と思い答えた。
「どこから来たのですか?」
「日本からです。」
「日本人ですか?純粋な日本人?ハーフですか?お父さんとかお母さんが日本人じゃないとか?」
「いえいえ、純粋な日本人です。両親とも日本人です。」
「そうですか。韓国は仕事ですか、観光ですか?」
「う〜ん、まあ、観光みたいなものです・・・。」
「私は20世紀フォックスという映画会社のソウル支店に勤めています。韓国の映画を見たことがありますか?」
「ええ、いくつかありますよ。」
「何を見ましたか?」
一時期の韓流ブームということもあって韓国の映画は日本でもロードショーされているし、TVでも放映されているはずである。私自身も数本は見ている。
ただ、「何を」と聞かれても韓国語や英語の題名はもちろんのこと邦題すらも出てこない。 その中で、なぜだか「私の頭の中の消しゴム」だけは鮮明に題名が思い浮かんだが、これを英語に直訳しても、到底相手に通じるとは思えなかったので、
「えーと、ソウルを流れる川にモンスターが現れて・・・」
とたどたどしく説明をしていると
「ああ、それは韓国語で・・・といいます。」とのこと。(・・・の部分は全く覚えていない)
「ところで、韓国の映画は日本で人気がありますか?」
と続けてきたので、
「ええ、人気がありますよ。」と深く考えずに答えると
「200?年に一度ブームになって、その後は下火になっているはずです。」
と、さすがは業界関係者である。確かに一時期の韓流ブームもかなり下火になっている。すると、今度は年上の方の一人が私のテーブルの前に座って韓国語で何かを言っている。英語は話せないようで、先ほどの20世紀フォックスに勤めている韓国人が通訳をしてくれた。
「もうナムサンには登りましたか?」
「ナムサン(南山)」とはミョンドン駅の南に位置する山で標高は265mほどで、頂上にはNソウルタワーというテレビ塔(高さ約230m)がある。塔には展望台があり、市民に公開されているようである。
「いや、まだ登ってはいません。」
「ナムサンは日本の富士山みたいなものだ!」
「でも、韓国にはもっと高い山があるんじゃないですか?」
「もちろんあるが、高さの問題ではなく気持ちの問題だ!」
とのこと。今日は(もう12時を回っているので)韓国の祝日で夜中の2時を過ぎてもミョンドン駅の周辺はにぎわっていた。隣の4人は「朝まで飲むぞ!」という感じでタクシーを拾いでどこかに消えていった。私もビールの後に焼酎を飲んでほろ酔い気分になったので勘定を済ませた。
お店の女性の「今日は祭日だからお店も休みよ。また明日ね!」という言葉に「分かった。分かった。じゃあね!」と言って宿に向かったのである。


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