四方山話

      

     

タイ・マレーシア フィットネス紀行/四方山話




そんなに優しくしてもダメだよ!「チェックアウト、プリーズ」

  ここクアラルンプールの宿も出発前にネットで1週間の予約を入れておいた。その宿はブキ・ビンタン地区にあるのだが、なぜブキ・ビンタンかというと、「California Fitness」というフィットネスクラブがブキ・ビンタンから徒歩で10分くらいのところにあるということもネットで調べて分かっていたからである。
  「地球の歩き方」にはこのブキ・ビンタン地区にいくつかの安宿があることを紹介しているが、その中でPD Lodgeの説明が以下のようになっていた。
  「客室は窓ありと窓なしがあり、いずれも清潔。欧米人に人気のホテルで、最上階にはツインタワーが望める広々としたテラスがある。ロビーにはパソコンがあり、インターネットもできてとても便利。地上階はバーになっている。ドミトリー:25リンギット、シングル:55、ダブル:65で朝食付き。」
  「窓なし」は勘弁して欲しかったが「清潔、広々としたテラス、インターネット」などの言葉がここちよく響いた。シングルで55リンギット、2006年10月現在、1リンギットは約32.5円とのことなので、1,800円弱である。
  安いところを探そうと思えば、チャイナタウンあたりにバックパッカー達の安宿があるみたいだが、今回は安ければよいというものではない。フィットネスクラブに通いやすく、シングルであるというのが、第一条件である。
  このPD Lodgeが入っている古びたビルに着いたのは夕方5時を回っていた。「地球の歩き方」には1階は「バー」とあるが、「バー」というよりはちょっとカフェみたいな感じであった。店の前にもテーブルがいくつか並べられていて、日曜日の夕方ということもあり、結構にぎやかであった。
  おいしそうにビールを飲んでいるのを横目で見ながら、狭い階段を2階まで上ると、洒落たドアに日本語で「都合によりしばらく9から開店します。店主」と書いた張り紙が張られてるのが目に入ってきた。店の名前は良く覚えていないが、アルファベットで「SAYURI」とか「SHINOBU」とかの日本人の女性の名前で、きっと日本人経営のスナックまたはバーみたいな飲み屋なのだろう。「あまり関係がないかな」と上の階を目指した。
  PD Lodgeはビルの3階にあった。出入り口のドアは開け放たれており、靴を脱ぎ、ドアの横に設けられているとても「清潔感」は感じられない下駄箱に入れた。中に入ると、すぐ目の前が受付になっていて、インド系の男性が2人ほどいすに座っていた。
  チェックインしたい旨を伝えると、「さっき電話してきた人か?」と言ってくるので、ちょっと頭の中に「???」マークが現れたが、
  「ネットで予約は済ませてある!」
  「ああ、そうだったのか。じゃ、関係ない。」
  と誰かと勘違いされたみたいである。名前を告げると
  「Mr.…、あった、あった、1週間か?長いな。」
  などといって受付用紙を渡してくるので、必要事項を記入して彼に渡した。
  どうでもよいが、さっきからこの受付の周りでいすに座りながらペチャクチャしゃべっている人たちは一体何なんだろう?テレビで放映されているサッカーの試合を見て、大きな声を上げて興奮している人もいる。
  従業員ではなさそうである。宿泊客か?それとも受付の人の友達で、「元気か?」などと言って、遊びにでも来ている人なのだろうか?ちょっと気になってそちらを見ていたが、
  「18号室を使ってくれ!」と例のインド系のおじさんから鍵を手渡され、「案内してやる。」とのことで、彼の後についていった。
  この時点でうすうすとは気がついていたが、とても「清潔」の2文字が似合う宿ではない。少しいやな予感がしていた。そして、私の18号室のドアが開けられ「ここだ!」と言われ、中に視線を移したときに脳の神経細胞は「不安」ウイルスに犯され、もともと大した機能はしていないのに、その3分の2は機能停止状態になってしまった。
  よくよく中をのぞくと、シングルベッドが2つ置かれていて、ベッドとベッドの間には50pほどの隙間しかない。ベッドの足元には簡単なテーブルがあり、卓上ライトがのっている。そのほかのスペースとして、「ドアが開くスペース+猫の額」ほどである。
  そして、例のインド系のおっちゃんは「トイレとシャワーはこっちだ!」と言って、私を別の場所に連れて行くではないか?彼のこの言葉で、私の脳の神経細胞の働きは「不安」ウイルスに犯されてしまい、完全に機能を停止してしまった。
  「聞いてないよ!」である。一時期はやった「聞いてないよ!」の復活だ。しかし、ひどいよ「地球の歩き方」さん。最初からトイレが共用だと分かっていれば、予約など入れていなかったのに…。大切な情報が抜けているよ!「ひどい、ひどい」である。
  私の場合、東南アジアを旅行すると必ず「下痢ピー」に見舞われる。今回もバンコクで痛みを伴う「下痢ピー」に何回かなっている。そんなとき、SOS信号を発しながらトイレに向かっても、他の人が使ってなどしていたら最悪である。いくら鍛えていても、私の肛門括約筋にも限界はある。
  手を使って補助しても、そうは持たないだろう。お尻を押さえ、モジモジしながらトイレの前で右往左往している姿は、日本人の恥さらしである。絶対に他の国の人たちにそのような姿を見せてはならない。
  インド系のおっちゃんはトイレやシャワーの場所、朝食の時間や取る場所などを一通り説明し「OK?」と聞いてきた。「O…,O…,OK」とノドの奥に詰まった「OK」を吐き出すのに一苦労し、ほっぺが「ピクピク」と2、3回ケイレンした。
  自分の部屋に戻り、荷物をシングルベッドの上に移し、私はもうひとつのキシキシと音色を奏でるシングルベッドの上に横になり、シミのついた天井を見つめた。「トイレが共用なのは話にならないし、セキュリティーの面でも安心できそうにもないしな〜。」
  事実、部屋のドアにはもちろん施錠はできたが、ピッキングになれている人であれば、すぐに開錠できそうなものだったし、受付の横にロッカーみたいなものがあり、自分で鍵を用意して、セイフティーボックスとして「空いているところは好きに使ってよい。」とのことだった。
  そのうちのいくつかはすでに施錠がされていた。鍵のついていないところを開けてみると、本などが入っていたりする。入れた人は「こんなものだれも取っていかないだろう。」ということで鍵をかけていないと思われたが、「safety」と呼ぶには程遠く、「un」という否定の接頭辞をつけたいぐらいであった。
  バンコクの宿では、全て受付にセイフティーボックスがあり、利用していた。正直言うと、今までは安宿しか泊まったことがないので、セイフティーボックスなるものを利用した記憶がない。
  中にはセイフティーボックスがあった宿もあったのかもしれないが、貴重品はいつも首からぶら下げていた。
  貴重品とはパスポート、現金、カード、トラベラーズチェック、航空券などなので、そんなに重たいということはないが、暑い国へいく場合は、首からぶら下げてTシャツの中に入れるので、汗などでベトベトして、不快に思うこともしばしばである。
  そのような場合、セイフティーボックスがあると非常に便利であり、その「便利さ」を知ってしまったのである。
  また、今回の旅ではノート型のパソコンを持参している。パスポートや現金などの貴重品に続いて取られたくないものであった。高価なものであるからといのもその理由の一つであるが、万が一盗難にあった場合は、宿でいろいろと打ち込み作業ができなくなるというのも大きかった。
  しかし、年を取ると共にかなり軟弱になったものである。若いころは、このような宿が旅先でのスタンダードであった。いや、ドミトリーの2段ベッドが普通であった。シングルルームなんていうものは、ぜいたく品以外の何物でもなく、旅の最後に懐具合を見ながら、★が1つか2つついているものに泊まったものだ。
  今までで一番安い宿はどこだっただろうか?たぶん、フィリピンのマニラのユースホステルの2段ベッドだと思う。18年近く前のことなのではっきりと覚えてはいないが、日本円で300円くらいだったと思う。
  そういうところでは、当然「快適」とか「清潔」などというものを期待してはいけない。
  ベッドは寝返りを打つたびに「キシキシ」と音がし、モスキート(蚊)の集中攻撃を受けるので、モスキートネット(蚊帳)をデパートなどで買って、ベッドの4つの足が長く上に伸びて柱のようになっているので、そこに四隅をくくりつけて、その中で寝るのである。
  もちろんシーツなどというものはないので、常に携帯していないといけない。
  トイレなども気持ちよく利用できるものではない。私の口から入った食べ物が、アミラーゼやペプシンなどの酵素と混ざり合い、胃酸のシャワーを浴び、小腸で栄養分を吸い取られ、数々の細菌の攻撃を受け、くねくねと曲がりくねった腸を旅する間に、水分もだんだんとなくなっていき、晴れて「ウン○君」となり、直腸での待機を経て、肛門様から旅立つわけであるが、トイレの排水の力が弱ければ、便器の底で「流されてたまるか!」と踏ん張ることになる。
  また、水の量だけ多く勢いがない場合は、便器ぎりぎりまで水が溢れてくるので、「ご主人様、私を見捨てないでー!」と叫びながら便器をよじ登ろうとしてくる。
  私は、彼らのそういう姿をとても悲しくて見ていられない。ゆえに、そういう場合は、速攻でその場を去ることにしている。
  しかし、決して私の責任ではない。私の「ウン○君」が「根性ウン○君」であったり「寂しがりやウン○君」であるからそうなるのではないし、まして私の教育のせいでもない。ただ単に、排水の状態が悪いだけなのだ。
  いかん、話を元に戻そう。「さて、どうしたものか?」と思っていると、グーグーとお腹が合唱し始めたので、「まずは食事とビールだ!」ということで、宿の近くにある屋台街に向かった。
  食事を済ませ、「マッサージ、マッサージ」の営業光線を避けながらブキッ・ビンタン通りを散策した。通りにはこじんまりしたホテルなどもあったりして、通りに面したウインドウには部屋の写真なども張ってあった。
  「いいじゃん、いいじゃん、よさそうじゃん。」というものも中にはあったので、受付まで行って宿泊料金を聞くと、「シングル60、トイレ付」とのこと、「なんだよそれ、安いホテルは結構あるんじゃないか!」という「怒り」みたいなものが一瞬こみ上げてきたが、速攻で「希望」へと変わり、脳の神経細胞を冒していた「不安」ウイルスが少しずつ駆除され始めた。
  「明日から6日間宿泊できますか?」と聞いてみたが、「満室」との返事。別のところでも聞いてみたが、「明日にならないと分からない。」とのこと。「なんだなんだ、やっぱりダメなのか!」と再落胆。
  通りからちょっと外れたところにもう1軒、ちょっと古びたホテルがあったので、だめもとで受付まで足を運んでみた。
  受付には再びインド系のおじさんの登場である。受付の脇には「The Rates」ということで料金表があり、「シングルで168リンギット」(日本円にすると約5,880円)という数字が目に入ってきた。
  168はかなり予算オーバーであるが、満室であればそれも関係ない。とりあえず、宿泊できるかどうか聞くと、「OK」とうなずいている。しかも、138リンギット(約4,830円)で言いといっているので「部屋を見たいのだけど。」と告げると、シングルの部屋に案内してくれた。
  ダブルベッド、テレビ、小さ目の冷蔵庫、セーフティーボックス、デスク、洋服の収納スペース、そしてトイレにシャワーである。
  ホテル自体が築20年くらいは経過しているのではないかと思われるものなので、廊下のじゅうたんにはところどころシミがあるし、壁紙も一部はがれたりしているところがあり、とても「きれいな」とか「清潔な」という形容詞はつけられないが、十分である。私には十分すぎる。不自由することなくパソコンも使用できそうである。
 受付に戻り、宿泊したい旨を告げると、「明日の1時までに来れば、部屋はキープしておく。」と言われたので、自分のフルネームを告げ、そのホテルを後にした。
  この時点で「不安」ウイルスの半分は駆除されていた。残りの半分の駆除は、あらかじめ1週間の予約を入れておいた、PD Lodgeを無事にチェックアウトできれば、問題ないだろう。
  ラッキーなことに、この宿はネットで宿泊の予約だけを入れておいただけで、料金は支払っていない。チェックインのときにも、1日分の宿泊料金だけを支払い、残りの6日分は「明日、全額払ってくれ。」と言われている。
  さて、その日の夜だが、部屋は一応エアコン付なのだが、2部屋で1つを共用する形になっている。つまり、エアコンの半分が部屋の壁で区切られていた。
  もちろん、ごく普通のエアコンなので、リモコンの赤外線を受ける部分は1つしかなく、それは隣の部屋側にあり、使用権は私にはなかった。
  個人的にはエアコンは苦手で、ファン(扇風機)で十分なのだが、通常、エアコンが設置されていればファンはない。そして、隣の部屋の住人は一晩中、エアコンをガンガンにつけっぱなしにしたので、寒いくらいであった。
  今までの宿であれば、シーツとか毛布に包まるのであるが、そのようなものはない。仕方なしに、暖気を取るために窓を開け、長ズボンと長袖のシャツを着て、寒さをしのいだが、当然、何回も目覚めたのは言うまでもない。
  さて、翌朝、朝食を済ませ、バッグに荷物を詰めて受付まで向かい「Check out, please.」と、昨日とは別のインド系の兄ちゃん言った。
  「O.K. You are Mr.…、Mr.…。」といいながら、宿泊客のリストから私の名前を探し当て
  こう言った。
  「あれ?1週間の滞在予定ではないのか?」
  「最初はそのつもりでいたけど、別のところに泊まることにした。」
  「どうしてだ?」
  と悲しそうな表情で聞いてきたので、諸々の事情を説明するのも面倒くさかったので、1つだけを取り上げて、彼にこう言った。
  「隣の部屋の人が一晩中エアコンをつけて寒くてしょうがなかった。もう少しでカゼをひくところだったよ。ポンポン、痛い、痛い!」とTシャツをめくってお腹をたたいた。
  すると、そのインド人は、「熱はないか?」みたいな感じで私のほっぺに手を当て、10日以上も剃っていない無精ひげを手でジョリジョリして「そろそろ剃ったほうがいいよ。」とやさしく声をかけてくれるではないか。
  「ダメだよ。ダメ、ダメ!そんなに優しくしても、もう決めてしまったからね!」と私は彼に「Please.」言った。
  彼は「OK」と軽くうなずいてくれた。私は18号室の鍵を返却し、デポジットとして預けている10リンギットを受け取って、その宿を後にした。
  まあ、欧米人に人気のある宿であれば、私がキャンセルした分はすぐに埋まることであろう。



 

ホテル「フォーチュナ」全景。アラブ系のホテルのようで、1階のレストランではアラビア料理が中心となっているようである。夜には水パイプをふかすお客さんでにぎわっている。また、ホテルの周りのお店もアラブ系で、ウインドウにはアラビア語が目立っていた。



私が宿泊した部屋。ベッドと窓の間にあるボードにはTV、セイフティーボックスや電気ポットなどが置かれている。電圧が200V以上あるため、お湯がすぐに沸くのには驚いてしまう。



窓よりベッドを写したところ。



宿泊した部屋の洗面所。もちろんお世辞にも「広い」とは言えないが、とりあえず許容範囲。宿泊前に見せてもらった部屋にはバスタブがあったが、このシャワーのみであった。「なんだよ。」と最初は思ったが、シャワーでさえもフィットネスクラブで浴びていたので、毎日浴びることはなかった。起床時にTシャツが汗でぬれているような時は、朝、シャワーを浴びたが、それが毎日続くと洗濯物が増えるし…。



チャイナタウンはもとよりいろいろな場所で春節を祝う飾り付けを見ることができる。ホテルのロビーにて。


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